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ちあきの星空コラム

第104回 火星接近 (2012/03/02)

しし座の中に輝く火星

小型天体望遠鏡で撮影した火星(1999年)

小型天体望遠鏡で撮影した火星(1999年)

3月6日は火星の最接近日です。2003年に見られた超大接近に比べると大きな接近とはいえませんが、2年2か月ぶりの接近となります。
火星と地球とは、お互いの公転周期の関係から2年2か月おきに接近し合いますが、今回の接近は大接近とはなりません。それは、火星と地球の公転軌道が楕円軌道であるために接近の距離にその都度、差が生じます。小接近、中接近、大接近といった呼び方でいえば今回は小接近になります。
それでも肉眼ではあかあかと輝き、明るさは-(マイナス)1.2等星ですから、付近にある1等星しし座のレグルスをしのぐ明るい輝きで、天体望遠鏡を使えば円盤状に見えて模様も上の写真のようなイメージで確認できます。
見える大きさを角度で表現すると、視直径は13.6秒となります。これは、2003年の超大接近のときの半分くらいのサイズで、天体望遠鏡では倍率100倍以上、できれば200倍くらいの高倍率で観測するといいでしょう。
最接近の3月6日の前後10日間くらいはほぼ同様の大きさで見えますし、1か月後でもある程度大きく見えますので、天体望遠鏡を使って連続観測すると表面模様の変化が観察でき、写真撮影も可能です。
肉眼でも星座の中を移動していく様子が観察できますので、毎日の位置を星図の中に記録していくと立派な観察記録ができあがります。
最接近のころの火星の位置はしし座の前足付近にあり、3月6日は月齢13の月が付近に輝いています。
ぜひ観察してみましょう。

金星と木星の接近

3月14日にはいよいよ金星と木星が最も近づいて見られます。それに先立ち、前日の13日には下図のように両星が並んで見られます。前日までは木星の方が高い高度にありましたが、13日を境に今度は木星の高度が低く見えるようになります。
この様子を毎日写真撮影するかメモ帳などにスケッチしていくと移動の様子が記録できます。ぜひ、観察しましょう。

金星と木星の接近の様子

金星と木星の接近の様子:3月13日午後7時ころ、西の空の高度約30度くらいの位置に見ることができます。他の星よりも圧倒的に明るく煌々と輝く様子が見られます。

金環日食情報

5月21日早朝に日本全国で見られる日食は、太平洋側の一部地域では金環日食(以降は金環食と呼びます)となります。先月に続いて日食の情報をお知らせします。
この現象は、早朝の通勤、通学時間帯の午前7時台に見られますので道路が渋滞したり、予想しえないアクシデントが発生することも予想されます。日食の前からマスコミでも大きく取り上げられるでしょうから大騒ぎになるかもしれません。
日本で見られる金環食は、久々で、この前が1987年9月23日に沖縄で見られました。さらにその前は1958年に奄美大島、トカラ列島、八丈島で見られた金環食がありました。
1958年の金環食は日本列島の各地で食分が大きく、下図は九州大分での当時の日食による太陽の欠け具合をシミュレーションしたものですが、その日食の起きた4月19日に私はまだ年齢が4歳10か月でしたが、はっきりとこの時のことを覚えています。

私の初めての日食体験

日食の見られた日は春の日差しの強い良いお天気の日でした。私は、自宅のある大分県庄内町(しょうないちょう:現由布市=生まれ育った場所)で近所のS君とチャンバラごっこなどをして遊んでいました。
やがて、正午が近づく頃に父母が農作業から家に戻ってきて、着色された空瓶を手に持ち太陽を見ているではありませんか。どうしたのかと尋ねたところ、日食が見られるという返事が返ってきました。しかし、その時はまだ時間が早いのか、欠けた様子はわかりませんでした。
やがて、正午過ぎに小学校六年生の兄が帰ってきて、学校でもらってきたというガラス片にろうそくの炎をあて、煤(スス)を付着させて黒くしました。その黒いガラスを使って太陽を交代で眺めたところ、欠けた太陽の姿を見ることができました。
ひとしきり日食観望を行った後、昼食をとり、午後もS君と外遊びをしましたが、太陽が西に傾き始めてもまだ欠けている様子を確認でき、長い時間欠けて見えるものだなあと感心したものでした。その夜、父親から地元の庄内神楽の「戸開き」という演目で、天照大神が天岩戸にお隠れになった時に世界が暗くなり、外で大騒ぎをしてその様子を見ようと天照大神が岩戸を少し開けた瞬間に天手力男命(タジカラオノミコト)が岩戸を力いっぱい開ける様子が演じられるが、あれは日食を表したものだと教えてくれました。
とても印象的なできごとであったため、繰り返し思い出し、50年以上たった今でもしっかり記憶しています。

1958年4月19日に大分で見られた日食の様子

1958年4月19日に大分で見られた日食の様子

5月21日に金環食が見られる区域

5月21日に金環食が見られる区域は黄色く着色した範囲 の地域です。金環食とならない九州北部、日本海側、東北 や北海道などでも大きく欠ける部分日食が見られます。 5月21日に金環食が見られる区域は黄色く着色した範囲 の地域です。金環食とならない九州北部、日本海側、東北 や北海道などでも大きく欠ける部分日食が見られます。

安全に日食を見る

日食を見るとき、太陽を直接見ないでください。
直接太陽を見ると日食で欠けていても強烈な光によって眼を痛めます。金環食中でもそれが言えます。必ず専用の日食グラス(日食観測専用のメガネ)で安全に見るように心がけましょう。
必ず事前に日食グラスを用意して万全の準備をして当日を迎えましょう。
日食グラスの代わりに、私が50年以上前に見た方法、すなわち、ガラスにろうそくの煤をつけて見る方法は目に紫外線や赤外線が到達しますので、決して行わないでください。
フィルムの感光した黒い部分や下敷きなどの代用品も、いずれも危なく、必ず専用の日食観測道具を使用して観察しましょう。
日食グラスは、カメラ店や望遠鏡ショップで販売していますが、日食が近づくにつれ売り切れとなることが予想されますので、早めの確保をお勧めします。

3月の天文情報

曜日月齢天文現象など
8.2上弦の月
9.2月の赤緯が最北
10.2
11.2
12.2啓蟄(二十四節気)
13.2火星の最接近
14.2
15.2満月 月が天の赤道通過(南半球へ)
16.2
1017.2月の距離が最近
1118.2月とおとめ座スピカが接近
1219.2
1320.2
1421.2金星と木星が接近して見られる 月の赤緯が最南
1522.2下弦の月
1623.2
1724.2
1825.2
1926.2
2027.2春分(二十四節気)
2128.2月が天の赤道通過(北半球へ)
2229.2新月
230.5
241.5
252.5
263.5細い月が金星、木星と並ぶ(宵の西空) 月の距離が最遠
274.5金星の東方最大離隔
285.5
296.5月の赤緯が最北
307.5
318.5上弦の月

3月の星空

3月になりますと、それまで冬の星座でにぎやかだった星空が、東の空から春の星座となってきます。
西の空にはオリオンが傾き、天上一明るい恒星のおおいぬ座のシリウスもやがて地平線に沈んでいきます。
今年の春の星座の中には惑星の火星と土星が輝き、春の星座の1等星はしし座のレグルス、おとめ座のスピカそれにうしかい座のアルクトゥールスの3個ありますが、惑星が加わっていますので、とてもにぎやかに見えます。
どれが惑星かを見極めないと星座をみつけにくく感じるかもしれませんね。
惑星の特徴は、星座をかたちづくる恒星が、チカチカとまたたいて見えるのに対して、惑星はまたたきが少なく、まるでボーと輝いているように見えます。さらに、火星は赤茶色、土星もくすんだ黄土色のように見られ、白く輝くスピカやオレンジ色のアルクトゥールスとはちょっと雰囲気が違います。星座さがし、惑星さがしには、ぜひこの輝き方の違いを参考にしてください。
星座をさがすには、下図の星図を利用することができますが、南の空を中心に描いているこの星図では全天の表現はできていません。
全天の星座をみつけるためには星座早見盤が適しています。書店や天体望遠鏡売場などで販売されており、価格も比較的安い500円~1000円程度のものが大半ですから、ぜひ一家に一個ご用意いただき、便利に活用しましょう。

3月の星空(背景黒)

3月の星空(背景黒)

3月の星空(背景白)

3月の星空(背景白)

3月中旬、午後9時前後の星空です。月の位置及び月明かりの影響は省略しています。画面をクリックすると大きな星図を見ることができます。この星図及び本コラムで使用している星図は、㈱アストロアーツの許諾を受け、天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ9」を使用しています。
田中千秋氏の略歴

田中千秋(たなかちあき) 男
1953年大分県生まれ

子供の頃、オリオン座の日周運動に気がついたことから星に興味をもち、その後、中学生時代に天体望遠鏡を自作して天体観測や天体写真撮影を始め、以来、現在まで天体写真を継続して撮り続けている。

この間、各天文誌の天体写真コンテストに入選。天文雑誌での天体写真撮影の啓蒙記事を幾度も連載、また、天文雑誌「星ナビ」の前身である「スカイウオッチャー」誌でのフォトコンテストの選者もつとめた。

最近は、各地の星まつり等における天体写真コンテストの選者をつとめたり、天体写真教室や観望会の講師をつとめるかたわら、仲間と共同で建設した天体観測所(千葉県鴨川及び長野県東部町)や神津牧場天文台(群馬県下仁田町)に天体観測に出かけている。

主な著書に、「図説天体写真入門」、「図説天体望遠鏡入門」(いずれも立風書房刊)がある。
茨城県龍ヶ崎市在住。