ちあきの星空コラム
第96回 赤い目玉のさそり (2011/07/05)
赤い目玉のさそり
7月前半は梅雨空で星が見えない夜が多いのですが、やがて梅雨が明けると夏の星座でにぎやかな星空が見られるようになります。
この季節にもっとも目立つのが夏の大三角と南の空のさそり座です。
天頂に輝き、夏の大三角をかたちづくる、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブは明るく輝き、その三角形を貫く天の川をたどって南の空まで行くと、そこにはさそり座があります。
さそり座は1等星アンタレスがさそりの心臓部に位置して赤く輝き、右側には大きな爪、左には毒針を持つしっぽがある星座です。
星座全体の姿はS字状に星が並び、その配列はとても印象的で、中でもアンタレスは、周囲の星と違って赤く輝いて見えることからアンチアーレス(アンタレス=火星の敵)と呼ばれてきました。
宮澤賢治は作品「銀河鉄道の夜」で、アンタレスの輝きを「さそりの火」と称し、ずっと燃え続けている存在として扱っていますが、童話「双子の星」に登場する「星めぐりの歌」では、『赤い目玉のさそり』と表現しています。
さそり座の位置は、銀河の中心方向に位置しており、アンタレスの明るく赤い輝きから想像すると、賢治が『赤い目玉のさそり』といった表現も納得がいきます。
雨上がりに目立つさそりの姿
このさそり座は、7月の雨上がりのすっきり晴れた夜に、南の空に大きな星座として見ることができ、赤いアンタレスを見ながら「星めぐりの歌」(作詞だけでなく作曲も宮澤賢治がおこなっています)を歌いながら、さそり座の配列からさそりの姿を想像してみるとロマンチックな気持ちになるかも知れません。
さそり座付近は、天の川(銀河)の川幅が広く、また、明るいことにも注目しましょう。周囲には、西側にてんびん座、東側にいて座がみつかります。
また、その付近は星雲、星団が多く存在していますので、双眼鏡や天体望遠鏡で観望すると数多くの星雲、星団に遭遇でき、まるで宇宙空間を浮遊しているかのような錯覚に陥る楽しさを味わうことができます。
見おさめとなる土星
おとめ座に位置する土星は、夏休み期間中は夕方の西空低くに見ることができます。時間の経過とともに土星は地平線に近づきやがて沈んでしまいますが、低空になるほど地球大気の揺らぎによって天体望遠鏡で見てもその独特の姿である環を持った形が判別しにくくなります。
薄明の残る西空に輝く一番星(土星)を発見したら、天体望遠鏡を(お持ちであれば)すぐに土星の方向に向けて今年の土星の最後の姿を楽しみましょう。
7月の天文情報
日 | 曜日 | 月齢 | 天文現象など |
---|---|---|---|
1 | 金 | 29.2 | 新月 |
2 | 土 | 0.8 | 半夏生(雑気) |
3 | 日 | 1.8 | |
4 | 月 | 2.8 | 地球が遠日点を通過(太陽との距離が最も離れる) |
5 | 火 | 3.8 | |
6 | 水 | 4.8 | 月が天の赤道を通過(南半球へ) |
7 | 木 | 5.8 | 七夕 小暑(二十四節気)月の距離が最近 |
8 | 金 | 6.8 | 上弦の月 |
9 | 土 | 7.8 | |
10 | 日 | 8.8 | |
11 | 月 | 9.8 | |
12 | 火 | 10.8 | 海王星が発見から公転1周期(公転周期165年) |
13 | 水 | 11.8 | 月の赤緯が最南 |
14 | 木 | 12.8 | |
15 | 金 | 13.8 | 満月 |
16 | 土 | 14.8 | |
17 | 日 | 15.8 | |
18 | 月 | 16.8 | 海の日 |
19 | 火 | 17.8 | |
20 | 水 | 18.8 | 夏の土用 月が赤道通過(北半球へ)水星が東方最大離角 |
21 | 木 | 19.8 | |
22 | 金 | 20.8 | 月の距離が最遠 |
23 | 土 | 21.8 | 大暑(二十四節気) 下弦の月 |
24 | 日 | 22.8 | |
25 | 月 | 23.8 | |
26 | 火 | 24.8 | |
27 | 水 | 25.8 | 月の赤緯が最北 |
28 | 木 | 26.8 | みずがめ座δ南流星群が極大 |
29 | 金 | 27.8 | |
30 | 土 | 28.8 | |
31 | 日 | 0.3 | 新月 |
7月の星空
7月7日は七夕まつりですから、七夕飾りの短冊に願いを込めてお祈りする方も多くいらっしゃることでしょう。特に今年は東日本大震災もあったことから被災地の早期の復興を願う方々の思いが短冊にしたためられ、願いが天にかなうことを祈りたいと思います。
その七夕の星は織姫(おりひめ)星と彦(ひこ)星ですが、天上に輝くこと座の0等星ベガとわし座の1等星アルタイルに相当し、夏の大三角を構成する3個の星のうちの2個ですから、もっともみつけやすく、覚えやすい星といえるでしょう。
夏の大三角のもうひとつの星、はくちょう座のデネブは、天頂付近の天の川のちょうど濃く見られる部分に位置し、大きな十字形のはくちょうの姿が天の川にすっぽり包まれています。
夏の星座のそれぞれの位置を星図や星座早見でたしかめ、本物の星空でさがしてみましょう。
7月には天の川よりも西側に位置する夏の星座、ヘルクレス座、かんむり座、へびつかい座、南の空のてんびん座やさそり座をみつけましょう。
一度に多くの星座をみつける必要はなく、じっくりと星座の配列やほかの星座との位置関係などを観察して覚えていきましょう。
田中千秋(たなかちあき) 男
1953年大分県生まれ
子供の頃、オリオン座の日周運動に気がついたことから星に興味をもち、その後、中学生時代に天体望遠鏡を自作して天体観測や天体写真撮影を始め、以来、現在まで天体写真を継続して撮り続けている。
この間、各天文誌の天体写真コンテストに入選。天文雑誌での天体写真撮影の啓蒙記事を幾度も連載、また、天文雑誌「星ナビ」の前身である「スカイウオッチャー」誌でのフォトコンテストの選者もつとめた。
最近は、各地の星まつり等における天体写真コンテストの選者をつとめたり、天体写真教室や観望会の講師をつとめるかたわら、仲間と共同で建設した天体観測所(千葉県鴨川及び長野県東部町)や神津牧場天文台(群馬県下仁田町)に天体観測に出かけている。
主な著書に、「図説天体写真入門」、「図説天体望遠鏡入門」(いずれも立風書房刊)がある。
茨城県龍ヶ崎市在住